北沢のリノベーション Renovation in Kitazawa

〈A面〉と〈B面〉

世田谷の閑静な住宅街にある築 50 年の自邸マンションのリノベーションである。

標準の住戸スパンに合わせて耐力壁があるラーメン構造で、この住戸では全体の空間を 1:2 で分割するように耐力壁が位置している。その両空間をつなぐのは 幅900 mmの開口のみという特殊な構成であった。50㎡の西の空間は、バルコニーに面して南面にのみ開口がある一方、30㎡の東の空間は南・東・北面に開口があり、東に隣接してテラスがある。その両空間の光、風、熱環境の強いコントラストが印象的であった。

そこで、そのコンテクストをもとに、西の空間に LDK・水回り・寝室等の生活する上での最低限の機能をすべて集約し、東の空間は棚と机だけを用意した。

それぞれの空間を〈A 面〉〈B 面〉と呼ぶこととした。

仕上げも対比的で〈A 面〉は床をウールカーペット、壁・天井は躯体を白色に塗り上げ、一部タイルを施し解像度の高いインテリアとしたのに比べ、〈B 面〉は床にフレキ、壁は既存プラスターをサンダー掛けするにとどめ、天井はクロスを剥がしたままであっけらかんとしている。

両空間をつなぐ開口部には奥行き850mmのゲートを施し、空間として連続させながら、体験的、視覚的に緩やかに分節した。

3人家族で住まうには、機能・環境をコントロールされた〈A 面〉のみで最低限の生活を充足できるが、少々手狭だ。そこで、コントロール仕切れない〈B 面〉での生活の仕方を考える。その不安定さが住まうことの主体性を揺り起こす。そこでは日々、家族それぞれのふるまいは変化し、雲のように風景が変わる。

そんな粗野で自由な空間で、日々環境をケアしながら、生活を更新していくうちに、〈B面〉という空間は「住む」というより、観葉植物や愛犬の成長を愛でるような「飼う」感覚に近いのだと気づいた。「空間を飼っている」。

その見立てによって、空間と人の潜在的な包含関係は解きほぐされ、あくまで並列な存在であると認識することができる。その瞬間、両者の関係は複雑にせめぎあい、双方にとっていきいきとした状況がそこに立ちあらわれてくるものなのだろう。

〈B面〉の成長をこれからも愛でていこうと思う。